偶然とは恐ろしいもので、同じ日に全く別の内容の論文が出ています。
Isotopic evidence for acidity-driven enhancement of sulfate formation after SO2 emission control
in Science Advances
こちらは著者15名の論文。
以下、要旨をかみ砕いてご説明
大気中で二酸化硫黄(SO2)から生成される硫酸エアロゾルは、気候変動や健康影響との関連から重要な物質とされています。SO2排出量は規制によって1980年以降の30年間で約7割削減されたものの、大気観測やアイスコアの分析から、硫酸エアロゾルの減少は5割程度にとどまっていることが知られていました。
この減少鈍化のメカニズムが特定されていないことが、効果的な削減策の策定や正確な気候変動予測の足かせとなっていました。
本研究では、北極グリーンランドのSE-Domeアイスコアの試料を使った硫酸の三酸素同位体組成 (Δ17O値)の分析により、過去60年間の大気中の硫酸エアロゾルの生成過程を復元しました。
Δ17Oは成層圏オゾンなど、成因によって特有の値を持つので、アイスコアに含まれるSO2のΔ17Oを測ることで、どの生成過程がどれくらい寄与していたか、を見積もることができます。
例えば、大気中でSO2がOHと反応してH2SO4ができる場合はΔ17O=0‰、雲粒の中でオゾンと反応する場合はΔ17O=6.4‰、H2O2と反応する場合はΔ17O=0.8‰、O2と反応する場合(TMI)はΔ17O=-0.1‰、と言った具合に。
そして、この雲粒の中の反応過程がオゾン寄りになるか、H2O2寄りになるか、TMI寄りになるか、は雲粒の酸性度(pH)で決まってきます。
研究では、アイスコアの分析に加え、GEOS-Chemという全球大気化学輸送モデルをもちいて酸化過程の寄与率を見積もりました。
その結果、この期間に大気中の酸性度が減少したため、排出されたSO2から硫酸への酸化反応が促進される「フィードバック機構」が作用していたことがわかりました。酸性度の減少は、SO2削減による酸性物質の減少に加え、施肥などによるアンモニアなどのアルカリ性物質の排出増加によると考えられます。
規制対象ではなかったアルカリ性物質の排出が、硫酸エアロゾルの減少鈍化の原因であったという本研究の結果は、今後の効果的な大気汚染の緩和策の策定や、将来の気候変動予測の高精度化に役立つと期待されます。
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